わたしが・・・と書くと、とてもエラそう。やっぱり、母親のやっているのを眺めていて憶えたのです。
切りびつけは、しつけ糸を布にわたして、チョンチョンと切っていく印つけの方法です。子どものころ、この方法で布に印をつけている母の横で、小さなハサミがきれいにしつけ糸を切り取っていくプロセスを、なんだか不思議な魔法でも見るような気持ちでずっと眺めていたのを思い出します。
切りびつけでつけた印は、洋服が仕立て上がっても、縫い目のところに残っています。それを毛抜きで抜くお手伝いをするのも、子ども心に楽しかったものでした。
学校の家庭科では、切りびつけは習いませんでした。たしか家庭科では、へらで印をつける、というのだったように記憶しています。そのほか、最近ではチャコペーパーとルレットを使って、というふうに書いてある本が多いような気がします。「切りびつけ」という方法は、一般読者向けの本に載っているのを見たことはないのですが、洋裁学校では習うみたい。
切りびつけは、いちいちしつけ糸を通すのがめんどうくさいようですが、へらでおさえてチャコで描いただけの線は、縫っているうちにほとんど消えてしまいます。また、チャコペーパーを使っても、ズレてしまうことも多くて、なかなかうまく印をつけられなかったりしませんか。
切りびつけできちんとした印をつけておけば、あとからなぞったチャコは消えても、絶対に印がわからなくなったりしません。印さえ正確なら、その印を合わせて縫っていけば、きちんとした形のものが出来上がるので、ストレスも少なくなります。めんどうなようでも、結局はきれいに早く縫い上げるのを助けてくれる印つけの方法が、切りびつけだと思います。
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型紙に添ってチャコなどで線を引き、型紙をはずします。布を重ねるのは2枚まで。 |
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2本どりのしつけ糸で3cmくらいの縫い目で図のように縫います。 |
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図のように縫い目の間を切ります。 |
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糸が布から1cm強くらい出るように糸を少しずつ引っ張りながら、図のように全部切っていきます。 |
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中表に重ねた布の内側で、しつけ糸を切ります。このとき、布を切らないように注意しましょう。 |
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すべての縫い目を同じように切ると、図のようにしつけ糸の印がつきます。 |
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これは下に重ねた布を裏から見たところです。裏にはこんなふうに印がつくので、印になぞってチャコでも線を引いておくと、より見やすくなります。 |
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切りびつけが全部済んだ布の表側。こんなふうに小さな印がつくので、わかりやすい。 |
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同じく裏側。 |
3 ミシン&手縫い
この間、大学時代の友人と数年ぶりに会いました。近況として、最近ソーイングに凝っている話をしたら、彼女と一緒だった大学のころも、ちょうどソーイングに夢中だったという思い出話になりました。わたしはすっかり忘れていたのですが、わたしが自分で縫ったワンピースの型紙(母親が作図したもの)で、彼女もワンピースを縫ったことがあったみたい。そのときわたしが縫ったのは、真っ赤な別珍だったのですが、友人はやはり別珍でベージュに巨大なカーネーションの柄だったということで、お互いに、うーん、今思い出すととても着れないよねえ。。。と、若気の至りを思い出しました。
で、仕事を持っているその友人は、今はとてもソーイングをする気になれないのだけれど、そのひとつはミシンを出すのがメンドクサイということです。彼女は女の子を出産したときに赤ちゃん服を縫ったのですが、小さすぎてミシンでは縫えなくて、手縫いで縫ったと言っていました。
わかるなあ、その気持ち・・・「ソーイングがめんどうくさい」と思っているけれど、それはじつは「ミシンがめんどうくさい」っていう意味だったりすることがあるような気がします。押入にしまっているミシンをやっと出したら、どうやって下糸まいていいか忘れてしまってわからないし、やっと巻けて縫い始めると、糸が切れたりつれたり、ぐしゃぐしゃの縫い目になったり。ミシンの調子を整えるのに何時間もかかって、肩凝ってすっかり疲れちゃう・・・こんなことってありますよね。
前にも書いたけれど、わたしも、いつも使える状態でミシンが置いてある実家を離れてから、自分の小さなミシンを買ったけれど、押入にしまいっぱなしで出すのがめんどうで、座布団カバーやカーテンを手縫いで縫ったりしていました。
そして、ソーイングというとミシンで縫うのが正式、だと思いこんでいましたけれど、ほんとうにそうなの?とあるとき開き直ってみたのです。それは、ついこの間のことなのですが、分厚いリネンキャンバスを縫うのに酷使しすぎた家庭用ミシンが壊れてしまって、家にミシンがない状態だったとき。それでも、どうしてもブルーのギンガムでワンピースを縫いたくなって、全部手縫いで縫ってみました。そうしたら、案外縫いやすくて、2日かかったけれど、ちゃんと出来上がったのでした。
考えてみれば、今でも和服はすべて手縫いですし、テレビで見たパリのオートクチュールのお店では、一番上等なものはすべて手縫いで縫うと言っていました。ミシンは速く作業ができるけれど、ていねいにきれいに返し縫いをすれば、ミシンよりも丈夫でないということは全然ありません。そでつけなどの曲線部分は、手で縫った方が、いせこみなどを少しずつ調節しながら縫えるので、ミシンよりもきれいにできたと思います。わたしの場合、スカート丈がかなり長いので、スカートの脇を縫うときはちょっと長い道のりでしたが、でも、とにかく、縫えないワケはないのです。おとな服でもこんなかんじですから、子ども服ならもっと手縫いも楽チンなハズ。「えーと次はどうするんだっけ」と考えながらゆっくりと縫うのには、手縫いも向いているかも・・・と手縫いの良さをあらためて発見した体験でした。
そのときに、縫いしろのしまつを、せっかくの手縫いだからと写真のように外に並縫いのステッチが出るやり方をしてみたのですが、これが案外良いような気がして、その後新しいミシンを手に入れてからも、わたしの定番のやり方になってきています。ロックミシンを持っていないので、そのせいでもありますが、素朴なかんじが出せて、かえって気に入りました。
縫い物をしてみたいけど、ミシンがねえ・・・そんなときには、ミシンのことは考えずに、手縫いソーイングをおすすめします。小さな巾着とか手提げみたいなものなら、ミシンを押し入れから出して準備する間に、手縫いでリラックスしながら、ちくちく縫えてしまうと思います。そのときに使う手縫い糸は、丈夫で細い、キルト用の手縫い糸がおすすめです。
さて、そうは言っても、たくさん縫うとなるとやっぱりミシンが欲しい・・・わたしもそう感じて、職業用ミシンを購入しました。これが、正直言って、ほんとうにとても良いものを手に入れられたと心から思っています。職業用と家庭用の大きな違いは針で、職業用ミシンは丸い針、家庭用は平べったい針です。平べったいよりはやっぱり丸い針の方が丈夫ですし、モーター自体がちがうのか、音からしてちがうかんじ。(値段もちがうけど・・・)職業用、と聞くと使うのがむずかしそうに聞こえますが、いろんな機能のついている家庭用に比べると、直線縫いしかない職業用ミシンはとてもシンプルですので、かえって扱いは簡単です。しかも、下糸まきなどもとても簡単に、きれいに、速くできて、機械音痴のわたしにとっても、ストレスがなくなりました。
ただ、値段もそれなりにしますし、直線縫いしかないので、たくさん縫ったり、デニムやキャンバス地とかを縫ったりしないときには、家庭用ミシンの方が手に入りやすいし、使いやすいと思います。そして、いろんな余分な機能がついていない、なるべくシンプルなミシンが良いような気がします。いろんな複雑な機能は、どうしても故障のもとになりやすいようです。
ちなみに、わたしの購入した職業用ミシンはjukiのspur21という機種でした。
じつは、わが家にはもう一台100年くらい前のクラシックなミシンもあります。いちおう縫えるのですが、ボビンの形も何もかもちがうし、とても使いこなす自信はなくて、これは眺めてしあわせになるための、インテリア用です。
2 額縁の縫い方
まわりを額縁に縫ったリネンのバスタオルのことを本に紹介したり、リネン展に出したりしたので、よくご質問をいただくのが「額縁の縫い方」。シンプルなんだけれど、たしかに、慣れるまでは「あれ?どうするのかな???」と迷ってしまうかもしれないですね。なかなか言葉だけでは説明するのもむずかしいので、わかりやすい形でまとめてみたいと思っていました。それなので、今日は額縁縫いがテーマです。
ちょっとむずかしそうに見える額縁縫いですが、要は四隅をきちんと45°に縫えば良いので、特別な技術がいるわけではありません。きれいに仕上げるためには、まず最初の四角の線引きを、なるべくきちんとまっすぐにすることですが、リネンの場合、のびたりたわんだりするので、これが案外むずかしいだけなのです。きちんと地直しして、なるべく広い所に広げ、注意深く線を引きます。布の端の切り落とした部分はたたみこんでしまうので、まっすぐでなくても大丈夫です。四角形さえきれいにとれれば、あとのプロセスは、シンプルです。
リネンが大好きで、リネン中心の生地屋さん、LINNET(今のところネット通販のみ)をはじめました。
てれんとたわむ、しどけない質感、洗うとどんどんやわらかくなるかんじ。リネンを使えば使うほど、そのナチュラルさとエレガントさに魅せられます。植物繊維の素朴感を持ちながらも、リネンはやっぱり高級感のある布。ですから、リネンを縫うときには、縫製もエレガントだといいな、といつも思います。とくに無地のリネンの美しさを引き立てるのは、美しい縫製だと思うので、クロスやバスタオルなど、四角いものをエレガントに仕立てるために、この「額縁縫い」はとてもよく似合うと思います。
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布のはし7mmくらいを図のように折り込みます。 |
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さらに、コーナーを折り紙を斜め半分に折るようにして折り込みます。このとき、折り込み部分を折り紙にたとえると、折り紙の1辺の半分の長さが、額縁の幅になります。額縁を大きくしたいときは、大きく折り込みます。 |
3 折り込んだ線から約7mmのところでカットします。 | 4 最初に折り込んだ線が重なり合うように、図のように再度折ります。 |
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図のようにミシンをかけます。(赤い糸で縫ったところ) |
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縫い代は、斜めにカットします。 |
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裏返します。 |
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7のように裏返して、きれいにととのえると、上の図のようになります。 |
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図のようにミシンで押さえるとできあがり。しつけをかけてから縫った方が、きれいにできると思います。 |
1 on the sewing table
↑母の引き出しの中には、いつもたくさんの色の糸がストックされています。これは、シャッペスパンのミシン糸をあつめてある引き出し。 |
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わたしの母は、神戸でドレスメイカーのお店をしていました。昭和40年代頃からだんだんと姿を消した「洋裁店」。母は、わたしたちが小さなころは、一時お店をたたんでいたこともありますが、子育ての手が離れたころに、お店を再開しました。最近では婦人服の仕立ての店はほとんどないせいか、母はいつもおおぜいのお客さんに囲まれて、忙しく働いていました。60歳をすぎて、今はお店はやめたけれど、実家には母の「アトリエ」があり、今も半分仕事、半分趣味で洋裁をつづけています。
しっかりした職業用のミシン、ボディ、たくさんの糸やさまざまな道具、材料。そういったものが並んでいる母の仕事場は、幼いころから、わたしたち子どもにとっては、おもしろくてきれいな遊び道具のいっぱい並んでいる、たのしくてたまらない場所でした。
ミシンが壊れると修理の人を呼び、ボディの張り布が傷んできたら張り替え、でもどうしても古くなったら買い換えて、何代もの道具の入れ替わりも眺めました。
いつも母に連れられて行った洋裁材料のお店や、生地屋さんも、とてもなじみ深い場所でした。
たくさん並ぶボタンの箱、色順に綺麗に並んでいる糸、山と積まれた生地。
そういったものを日々眺めていたことが、おとなになって絵を描いたり、もの作りの仕事をする原点になったことはまちがいなさそうです。
わたしがはじめて縫い物をしたのは、幼稚園に入る前くらい。縫い物をしている母の横で、スカートを縫ってみました。しつけ糸で両脇を縫っただけのもので、実際にはけるようなものではありませんでしたが、子ども心に、とてもうれしかったのをおぼえています。
高校・大学のころは、おしゃれをしたいけれど、お金はあまり持っていないので、母親に製図をしてもらい、自分でブラウス、スカート、ワンピースなどを縫いました。でも、オーバーなどむずかしいものは全部母まかせ。自分の洋服ができあがるのをたのしみに、母が縫っている作業を、横でじっと眺めていたりもしました。
洋裁は、わたしにとって、あまりにも身近だったので、好きかどうか、あらためて考えたことはなかったかもしれません。すべての女性は家で洋裁をするものだ、と思いこんでいたような気もします。
けれど、職業用ミシンやロックミシンをはじめ実家でプロユーズの洋裁スペック(?)で縫い物をするのを当たり前に思っていたわたしは、結婚して実家を離れ、そういった道具が身近になくなってしまってから、とてもソーイングがやりづらくなり、ときどきクッションカバーや袋物などこまごましたものを作る以外は、10年以上の間、ソーイングを全然しませんでした。
けれども、リネンの本(「リネンが好き」文化出版局)を作っているうちに、雑貨はもちろん、リネンで服も縫いたいという気持ちが沸き上がってきて、ソーイングを再開しました。家庭用ミシンが壊れたのをキッカケに、職業用ミシンに買い換えたら、分厚いリネン・キャンバス地なんかも平気でじゃんじゃん縫えて・・・ますますソーイングがたのしくなっている今日このごろです。
このところ、自分が母親に似てきた気がして、不思議です。この間、自分で作図をして縫った服を母に見せたところ、「あら、なかなかうまいじゃない。これなら
店で使えるわ。」と言われました。。。
※補足:切りびつけ(Thread Trace/Thread Marker)は切りじつけ、切りしつけとも言う(Tailor Tack/Tailor's Tack)ようです。